希望大国ブラジル(その19) 多様性保つ「森をつくる農業」 アグロフォレストリーの先進地

希望大国ブラジル(その19) 多様性保つ「森をつくる農業」 アグロフォレストリーの先進地

多様性保つ「森をつくる農業」 アグロフォレストリーの先進地

 10メートルはあろうかという樹木の木陰で、つややかな緑色をした葉の間にカカオの実が下がっていた。ブラジル北東部パラ州の町トメアス。世界の熱帯地域で営まれている「アグロフォレストリー(森林農業)」の先進地として知られる。

 「今年はよく熟しているから、おいしいチョコレートができる」。農場主の日系3世、セイヤ・タカキさん(43)はまだ青いカカオの実をもぎ取り、日焼けした顔をほころばせた。近くではアサイやグアバといった熱帯果実が育つ。

 森林農業は「森をつくる農業」とも呼ばれ、一つの土地にさまざまな作物を栽培し、その間に木材として売れるような木も植える農林複合経営。単一作物より病害虫や価格暴落の危険が小さく、年間を通じ収穫があるため経営も安定する。生物多様性を保てるとして環境面でも注目を集める。

 「トメアス総合農協」は昨年12月、連邦政府から地域発展貢献賞の最優秀賞に選ばれ、首都ブラジリアで当時のルラ大統領より代表者へ賞状が手渡された。組合長で日系2世のワタル・サカグチさん(51)は「長年、究極の環境農業を行ってきた」と話した。

地域発展と両立

 トメアスは1929(昭和4)年、日本人移民43家族189人が初めて入植した日本人移住地だった。交通手段は水路だけ。マラリアで多くの命が奪われた。

 戦後、コショウの生産が軌道に乗った。61年には3200トンに上り世界生産の5%をトメアスの500家族が担った。だが60年代後半からの病害と水害で壊滅した。コショウに代わる作物を探してカカオを植えた際、日陰を好むカカオのために一緒に木を植えたことから森林農業が始まった。

 現在、人口4万8千人の町に1千人の日系人が暮らす。主力はアサイなどの熱帯果実。アサイはアマゾンの川沿いに自生するヤシ科植物でポリフェノールや鉄分を豊富に含む。パラ州出身の有名サッカー選手が「故郷の父親に送ってもらって飲んでいる」と発言したことから健康飲料として人気が出た。農協は熱帯果実を冷凍ジュースへ加工し、2009年は農協の全売上高の3分の2を占める1385万レアル(約7億円)を売り上げた。米国や日本へも輸出している。

 農協の理事で鹿児島県出身の小長野道則さん(52)はブラジル人の小農へ森林農業の技術を教え、種苗や農機具を貸し出して普及に努めてきた。2月には隣国ボリビアへも出向いた。

 小長野さんは「アマゾンだけでなく、アフリカや東南アジアでも熱帯雨林の保全と地域発展の両立に貢献できると思う」と話す。

小農が農村定着

 トメアスでは近年、焼き畑により放牧地となり、その後放棄された荒れ地がアブラヤシ農園へ姿を変えている。サトウキビのようにバイオ燃料となるほか化粧品の原料になり、世界最大の鉄鉱山会社「バーレ」やブラジルを代表する化粧品メーカー「ナトゥーラ」が農園経営に参入した。ルラ前大統領の子息がかかわる農園もあるという。

 両社はCSR(企業の社会的責任)活動として森林農業を支援する。「アブラヤシの単一大規模栽培では小農が取り残される」との批判をかわす狙いがある。

 東京農工大学の山田祐彰講師(47)=農村開発=は「大規模な森林破壊によらず、生産性の高い人工林を作ることで、小農の収入を補完し、彼らが農村へ定着することに寄与している」と指摘する。

 不毛の地を穀倉地帯へ変えたセラード開発による大豆の生産など、米国流の大規模農業だけではないブラジル農業の多様性がそこにある。

-産経ニュースより-

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