希望大国ブラジル(その8)-「土地なし農民運動」を訪ねて 農業大国もう一つの顔

希望大国ブラジル(その8)-「土地なし農民運動」を訪ねて 農業大国もう一つの顔

「土地なし農民運動」を訪ねて 農業大国もう一つの顔

 柱は竹。屋根は黒いビニールシートをかぶせただけの、テントとも小屋ともいえぬ「住居」が数十棟並び、広場には赤い旗が翻っていた。ブラジル南部パラナ州の奥地。農地を持たない人々を組織して不在地主の遊休地を占拠する社会運動「土地なし農民運動(MST)」の野営地である。

 MSTは1984年、パラナ州で設立された。憲法の「あらゆる土地は生産活動に利用されなければならない」との条文を法的根拠に遊休地を占拠し、何年もかかる裁判闘争に訴える。勝訴すると国が強制的に買い上げ、占拠者たちへ借地権が分配される。

 2009年の時点でブラジル全27州のうち24州に組織され、四半世紀で37万家族が農地を得た。現在も13万家族が野営生活を送る。

 訪ねた野営地は「ホーチミン」と名づけられ、1年2カ月ほど前から70家族が占拠していた。80キロ余り離れた町のタイヤ整備工場で働いていたというアントニオ・ベナンシオさん(47)夫婦は、すえたにおいのする薄暗い「住居」で訴えた。

 「最低賃金ではこの年齢になっても農地を買えなかった。農地がほしい。土地があれば家も建てられる。安定した生活が送れる」

大地主が43%所有

 ブラジルは植民地時代の大土地所有が残り、ブラジル地理統計院の06年の統計によると農家の1%にすぎない大地主が全農地の43%を所有する。MSTに対しても、農場主が雇った自警団との衝突で占拠者が死亡する事件が後を絶たない。

 上智大学の田村梨花准教授(39)=ブラジル社会学=は「労働党政権はMSTを重要な支持母体としている。ルラ前大統領も大農の土地を小作人へ分配する農地改革を進めると約束したが、実際は大規模なアグリビジネス(農業関連産業)を支援してMSTの批判を招いた」と指摘する。

 今回訪ねたパラナ州サンジェロニモ地方のMST事務所。机に置かれたノートパソコンに、キューバ革命の英雄、チェ・ゲバラのシールが貼ってあった。

 指導者のルイス・サリスさん(43)は「労働党政権になってわれわれは警察の監視から外れ、国から支援もあったが、最終的には農地改革は進まなかった」とし、今年1月に就任したジルマ・ルセフ大統領についてこう述べた。

 「ジルマはわれわれをよく理解している。改革が進むことを期待している」

 ルセフ大統領は裕福な家庭に育ちながら「左翼の闘士」だった経歴を持つ。

進む大規模企業化

 不毛の大地を穀倉地帯へ変えたセラード開発には、わが国の戦後農地改革と同様、政治的安定のため保守的な自作農を増やす狙いもあったという。結果的には80年代後半からの経済混乱により小規模自作農は相次ぎ撤退した。残った農家がそれらの農地を買い増し、大規模企業化して輸出用大豆を大量生産している。

 MSTのサリスさんは「われわれは家族農業でブラジル人向けの食料を作っている。アグリビジネスのような遺伝子組み換え作物は作らず有機農業を心がけている」と話す。そこには世界で存在感を増す農業大国のもう一つの顔がある。

 ホーチミン野営地の近く、4年にわたる裁判で54家族が各12・5ヘクタールを得たばかりの植民地「ローザ・ルクセンブルク」を訪ねた。ロシア革命時代のドイツの女性革命家の名である。

 別の野営地と合わせ9年待ったというパトリシア・クルスさん(32)は、以前はサンパウロの会社員だった。野営地で生まれた長男、ブライアンちゃん(1)を抱き「希望だけが支えだった。コーヒーと米とフェイジョン豆とトウモロコシを植えたい。乳牛を飼いたい」と満面の笑みを浮かべた。

―産経ニュースからー

カテゴリー: 

言語

Brasil

Japão

連絡先

www.samicultura.com.br

携帯: 55 92 98108-3535
E-メール: hisashi_umetsu1948@yahoo.co.jp
Go to top