希望大国ブラジル(その16) -豊富な「水力」成長下支え 世界3位のベロモンテ水 力発電所

希望大国ブラジル(その16) -豊富な「水力」成長下支え 世界3位のベロモンテ水 力発電所

豊富な「水力」成長下支え 世界3位のベロモンテ水力発電所

 眼前に広がる密林がすべてダムの底へ沈む…。ブラジル北東部パラ州、世界最大の河川アマゾン川の支流沿い。完成すれば発電量で世界3位となる「ベロモンテ水力発電所」の建設予定地へ日本のメディアとして初めて足を踏み入れた。

 アマゾンの地方都市アルタミラから南へ赤土の道を車で2時間以上。濃い緑色をしたシングー川沿いにトタン家屋が点在する集落が現れた。ダムは完成すると高さ90メートル、幅3・5キロ。琵琶湖の面積の約8割の熱帯雨林516平方キロが水没し、この集落を含め先住民族ら1万6千人が立ち退きを迫られるとして、国内外から批判を浴びている。

 総工費110億ドル(約8800億円)、総発電量はわが国の標準的な原発10基分に相当する1100万キロワット。中国の三峡ダム、ブラジルとパラグアイにまたがるイタイプ水力発電所に次ぐ規模であり、2015年の電力供給開始を目指し、ブラジル政府は6月1日、ダムの着工を認可した。

 新興国BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国)の一角、ブラジルの経済成長を「水力」が下支えしている。地球上の淡水の2割はブラジルにある。水力発電所が600余りあり、国際エネルギー機関(IEA)によれば電力供給は08年、水力80%、火力13%、原子力3%。主要国で特異な存在だ。

 だが、立命館大学の小池洋一教授(62)=開発経済学=は「供給が不安定な上、サンパウロなど大都市までの送電距離が長く供給ロスが多い」と話す。01年には渇水で電力が不足し全土で今夏のわが国同様、25%の節電が行われた。近年も成長に供給が追いつかず停電が頻発している。

 ブラジルでは現在、リオデジャネイロ州の大西洋岸にあるアングラ原発1、2号機の運転と3号機の建設が進む。運転中の2基は不具合などでしばしば停止するため、点滅を繰り返す「ホタル」と揶揄されるが、ロバン鉱山エネルギー相(74)は地震や津波が極めて起きにくい地域にあるとして「世界で最も安全だ」と述べている。

 一方で、批判を押し切る形でベロモンテ水力発電所の着工が認可されたのと同じ日、ロバン氏は新たに建設予定だった原発4基の計画見直しも表明したのだった。

経済優先…揺れる「環境先進国」

 ヤシが生い茂る密林の水辺、ブラジル・パラ州にあるベロモンテ水力発電所の建設予定地。米映画「アバター」で知られるジェームズ・キャメロン監督(56)が昨年4月にハリウッド女優とともに訪れ、建設反対の石碑があるという場所を目指したものの、立ち入り禁止のフェンスに阻まれ、行けなかった。

 少し離れた場所に先住民族の一つ、カヤポ族が暮らす集落があった。文明社会とは一定の距離を置く彼らにとって、一帯を水の底へ沈める巨大ダムは命にかかわる重大事である。若者の一人はなまりの強いポルトガル語で「私たちはこの川の恵みで生きてきた。ダム建設は生活だけでなく、先祖が築き上げた歴史まで壊してしまう」と訴えた。

 一方、建設予定地の川べりで飲食店を営むロドリゴ・リアンタダさん(62)は新鮮なヤシジュースを振る舞いながら言った。

 「ダム建設で雇用が生まれ地域も発展する。環境保護は先進国のエゴにすぎない。人間の命よりワニの命の方が大切と言えるのか」

選択伐採から皆伐採へ

 1992年にリオデジャネイロで開かれた国連環境開発会議(地球サミット)から20年を迎える来年、同じ地で「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」が開かれる。国立宇宙研究所の衛星画像解析によるとアマゾンではこの間、全520万平方キロのうち日本の面積に匹敵する31万平方キロの森が失われた。

 アマゾナス州マナウス郊外の国立アマゾン研究所へ日系2世のニーロ・ヒグチ博士(59)を訪ねた。2007年に学術機関「気候変動に関する政府間パネル」の一員としてゴア米元副大統領(63)とノーベル平和賞を共同受賞した。

 ヒグチ博士は「アマゾンに生い茂る樹種や生物は多様で広く分散しており、伐採後も森林は他の地域の熱帯雨林より早く再生する。伐採規模にもよるが、多少の森林劣化はあっても数十年の周期で天然更新する」としつつ、こう述べた。

 「以前は木材として売れる木を選んで切る選択的伐採が主流だったが、現在はすべて伐採してしまう。これでは天然更新ができず、生態系へ悪影響を与える」

森林破壊、懸念再び

 アマゾンの森は他に、牛の放牧地や大豆畑にするため違法に伐採されてきた。

 1990年代以降、衛星を駆使した監視システムを世界で初めて導入し、違法伐採者には実刑を科す厳しい環境犯罪法も定めた。年間の森林消失面積は2004年の2万7772平方キロをピークに減少を続け、10年は栃木県の面積に相当する6451平方キロ。JICA(国際協力機構)南米課の近藤碧さん(27)は「ブラジルが有数の環境先進国であることはあまり知られていない」と話す。

 ところが今年5月、アマゾンの土地利用を規制緩和する森林法改正案が連邦議会の下院で可決され、上院へと回されたことで森林破壊の懸念が再燃してきた。経済成長のため開発を優先する考え方が背景にある。

 地球の反対側の原発事故を受け、原発増設が見直される一方で着工されるベロモンテ水力発電所は、こうした「開発か環境か」という古くて新しい問いの中で槌音が響こうとしている。

 アマゾナス州企画開発局幹部、セルジオ・ソウザ氏(59)は「電力の安定供給は発展を続けるわが国の重要な政策課題だ。特にアマゾンのダム開発は成長維持のために欠かせない」と話し、こうも語った。

 「新興国の盟主を目指すわが国にとってアマゾンの環境保護が持つ戦略的意義は大きい。よりよい結論を導いていかねばならない」

-産経ニュースより―

 

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