希望大国ブラジル(その11)-モノ買う中間層(C層) 牛丼も「カード」で

希望大国ブラジル(その11)-モノ買う中間層(C層) 牛丼も「カード」で

モノ買う中間層「C層」 牛丼も「カードで」

 缶ビールが詰められた茶色い段ボール箱にバター、洗剤、長女の靴、リビングのスピーカー…。セルジオ・シルバさん(37)は週末でにぎわうブラジル・サンパウロの巨大ショッピングセンター「イビラプエラ」で、大量の荷物を運びながらにこやかに話した。

 「娘がモノをたくさんねだるし、家族のために買いたいものがたくさんある。毎週のように来ている」

 レンタカー会社に勤め、月収は3千レアル(約15万円)。世帯月収が15万~38万円の中間所得層に相当し、ブラジルでは「Cクラス(C層)」と呼ばれる。政府機関である地理統計院は自国民を世帯収入によってA層からE層まで5分類している。A層は76万円以上▽B層76万~38万円▽D層15万~5万円▽E層5万円以下。

 シルバさんは飲食店から転職し、C層の仲間入りを果たした。「買えなかったものが今は手に入る。次は車、その次は家を買うのが夢」と話し、バスで郊外の自宅へ帰っていった。

 新興国「BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国)」の一つ、ブラジルの成長を「内需」が引っ張っている。2010年のGDP(国内総生産)に占める個人消費の割合は60%。わが国の57%を上回り、5~7割とされる先進国の水準に達している。

 民間研究機関バルガス財団によると、総人口1億9325万人のブラジルで、03年に国民の38%だったC層は09年、50%に拡大した。C層がモノを買い始めたことで新車販売数は世界4位、パソコンも4位。ビール消費量は3位にまで伸びた。

 新興市場へ世界中の企業が押し寄せる。中でもサムスン電子やLG電子、現代自動車の韓国勢の躍進が目立ち日本企業は出遅れた。ジェトロ(日本貿易振興機構)サンパウロセンターの沢田吉啓所長(56)は「韓国は価格競争力とデザイン性豊かな製品で、ブラジルを本気で攻めている。背後では中国も続々と進出している」と指摘する。

 世界最大の食品飲料メーカー「ネスレ」(スイス)のブラジルでの売上高は09年、米国に次ぎ世界で2番目に多かった。ネスレ・ブラジルのイバン・ズリタ社長はこう述べている。

 「中国には10億人以上の住民がいるが、ブラジルには2億人の消費者がいる」

秘密は「クレジット経済」

 ×、×、×…。巨大ショッピングセンターに「×」と数字が躍っていた。勃興する中間所得層「C層」で活気づくサンパウロ中心部の「サンタクルス」。家電や家具、衣料、靴とあらゆる値札に書かれた「5×」「8×」などの表記は分割払いの月数を示している。

 入り口のそば、ブラジル全土に560店を展開する国内最大のC層向け家電量販店「カザス・バイア」。日本メーカーのLED搭載の46型液晶テレビは399レアル(約2万円)で横に「10×」とあった。399レアルで10カ月払い(計3990レアル、約20万円)の意味だ。

 一括払いなら3355レアル(約17万円)だが、日本と異なり値札に小さく書かれるだけで気にする人はいない。他にも「12×」「18×」「24×」といった選択肢が用意されていた。

 家族と来店した会社員、セルジ・コンテインチさん(53)は液晶テレビを眺め「月々の支払額を見て、買えそうと思ったら購入する。クレジットカードがあるので買いたいときが買うときになる」と話す。

「ポケットの中」見て消費

 ブラジルの好調な内需を支えるのは「クレジット経済」だ。クレジットカードの取引額は2010年、5年前の3.5倍に増え185億ドル(約1兆5千億円)。発行枚数は5億8660万枚で日本の1.8倍に上る。

 どの店にもカード決済の端末が置かれ、裏通りの薬局では老婦人が便秘薬をカードで買っていた。10年に進出した牛丼チェーン「すき家」ではカードで支払う人々の行列ができていた。

 旺盛な消費の背景に「カベ・ノ・ボルソ」と呼ばれるブラジル人気質もある。「今、ポケットの中身に見合うかどうか」を意味し、将来を考えずに手持ち資金だけで購入する消費行動を表す。

 ブラジルは1980年代後半からハイパーインフレに見舞われ、同じ日の朝と夜でも物価が上昇した。少しでも安く買おうと給料日のスーパーに人々が群がった。サンパウロの会社員、エドアルド・ヒラノさん(29)は「靴代に小遣いをためても翌週には手が届かない。誰も現金など信用せず一刻も早くモノに代えたがった」と振り返る。

 ブラジル東京銀行元頭取の鈴木孝憲氏(75)は「94年にインフレが収束し、物価が安定して分割払いが可能になったことで、カードが普及し始めた。さらに労働党政権の低所得層への現金給付と最低賃金引き上げ政策によりC層が急拡大した」と解説する。

 インフレへのトラウマを抱えるC層がクレジットカードを手にしたことで、一気にモノを買い始めた。

ローン残高、GDPの4分の1

 貧困の象徴であるスラム街「ファベーラ」にさえC層が現れた。リオデジャネイロのファベーラに住む主婦、アンジェア・バチスタさん(58)は06年、フォルクスワーゲンを購入した。72回(6年)払いで支払いはまだ続いている。

 バチスタさんは「食べ物も買えなかった私たちが車を持てる時代になった。ただ、これまで払った金利や総額は分からない」と話す。

 ブラジルは盛んな消費に支えられ10年、GDP(国内総生産)成長率が7・5%となる一方、景気過熱への懸念が強まり、ブラジル中央銀行はルセフ大統領が就任した1月以降だけで政策金利を4回引き上げた。

 神戸大学の浜口伸明教授(47)=開発経済学=は「政策金利が上がるとクレジットの金利も上がり支払いが焦げつく人が出てくる。借金による消費には危うさもある」と指摘する。

 消費者ローン残高はGDPの23%に相当する4950億ドル(約39兆円)。延滞率は10年、前年に比べ6%上がった。

 ブラジルの実像を伝える連載の第3部は、成長を続けるGDP2兆ドル(約160兆円)の市場に迫る。

―産経ニュースからー

 

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