弾力性のない流通機能

弾力性のない流通機能

弾力性のない流通機能 
 
外部からの供給に依存するアマゾンの流通機構は実に不安定である。
 
ブラジル南部からの供給が順調に行っている時は、値段の高いことを除けば、それほど流通の混乱は起こらないが、ベレン—ブラジリア国道が大雨で壊れたり、河が渡れなくて不通になると、アマゾン経済はたちまち混乱する。
 
食べ物さえなくなるのだからひどいもので、すぐに物価は高揚する。
 
それでもベレン、マナウスのような都会は、ある程度のストックがあり、流通機構に余裕があるかるからまだ良いが、地方の小さな町はテキメンに影響を受け、米もフェジョンも干し肉もカフェ、砂糖、油もきれいに店先から姿を消してしまう。
 
缶詰類なら多少はあるが、缶詰は高いから普通カボクロは買わない。店にあるのはマンジョカと塩魚の干物、またはワニの干し肉ぐらいで、カボクロはこれで二週間でも食料の到着を待っている。
 
かってのアマゾンは食料に関しては、ほぼ完全な地内自給体制をとっていた。陸の大孤島で、南部との交通手段がなかったのだから自給するより方法がなかったのである。
 
植物性食用油なども、つい十年前まではカボクロは自家製造していた。
 
アマゾンにはヤシ科の植物で油の取れるものは数が多く、ババスー、ムルハル、バカバ、アラクリ、ツクマン、ピリレマ、パタラア、イナジャ、ムカジャ、デンデなどがあり、ヤシ科以外でもウクラーバ、カウタニャ・ドパラ、サプカイヤの実などから良質の油がとれる。
 
かっては、こうした食料油はアマゾン域内経済の重要な産物であり、ドラム缶に入れ、舟に積んで売り歩いたものである。
 
現在はよほど奥地のカボクロでないと油の自家製造などやらず、高い金を出して製油工場でつくられた化粧缶いりの油を買っている。
 
前に述べた「酒づくりを忘れたインジオ」の図式がここにも当てはまる。
 
但し、アマゾンでは外部からの食料が入ってこなくとも、そのために餓死するということは絶対にない。
 
ここが東北伯の乾燥地帯とちがうところだが、主食のマンジョカはいつでも採れるし、バナナをはじめとする果物も植えてさえおけば出来る。
 
ジャングルに入ればバカバやアサイの木の実もある。河に行けば魚は釣れるし、エビも時期によっては大量に採れる。
 
鉄砲をもって山に入れば、何かしら獲物はある。何もない時は山バトやその他の野鳥を撃てば良い。これなら散弾を使えば必ずとれる。
 
餓死の心配のない貧困地帯というのは世界でも珍しい存在だが、これはアマゾンが豊富な熱帯降雨林と地上最大の河を有しているからで、食料に関してはある程度の自給戦力は持っている。
 
それにしても、アマゾンは恐ろしく弾力性に乏しい。
 
カボクロが何とか食べて行くぐらいの農産品はあるが、農業とか牧畜とか、少しでも人工の要素がからむものはサッパリ安定供給が出来ない。牛肉なども牛がかなりいるのだから、需要供給のバランスはとれそうなものだが、一時期に大量に出廻り、あとは慢性の不足状態という現象を繰り返している。
 
基礎資材にしても、鉄やセメントが不足するのは年中で、公定価格の何倍ものヤミ値になることも珍しくない。
 
一番困るのはジーゼル油やガソリンがなくなることで、予定していたタンカーが故障したりすると油が入らず、重大な影響を与える。
 
アマゾンの発電はジーゼル発電がほとんどだしアマゾンの足である舟もジーゼル・エンジンだから、油がないと文字通り動きがとれない。
 
アマゾンで事業を行う企業は、どの企業でもあらゆる場合を想定して一応の対応策を講じてはいるが、100%万全な策などあるものではない。
 
企業努力だけではどうしようもない不測の事態が次々と起こってくる。経済構造そのものが脆弱で弾力性がないから、次善三膳の手を打ちようがない。
 
これもひたすら「忍」の一字である。
 
 <サンパウロ新聞 アマゾン学のすすめ>から
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