何でも交易するレガトン

何でも交易するレガトン

カヌーでおもしろいのは櫂(レーモ)である。櫂の形はアマゾンでも場所によって違い、いくつもの種類があるが、多いには先端が平べったい卵形になったやつで、要するに飯杓子の大きなものと思えば良い。
 
長さはせいぜい一メートルが限度で、女、子供用は身体と力に合わせて適当に小さくなっている。
 
一見、たいしたものではないように見えるこの櫂も、カヌー同様、作るのはなかなか手間がかかる。
 
櫂というのは、柄の部分も先の平たい部分もすべて一本の木から作らなくてはならないから、ピキア、セードロ、アンジローバという櫂に適した木から幅50センチ、長さ1メートル20、厚さ5センチの板をとり、山刀でコツコツ刻んで仕上げる。
 
奥地のカボクロは誰でも自分で櫂をつくるが中には、先端の流れるようなカーブのつけ具合といい、柄の丸みといい、実にほれぼれするような『芸術作品』もある。
 
出来の良い櫂を丹念にペンキで花模様や風景を描き込んで、家の飾にしているのもあるが、飾としてもなかなか立派なものである。
 
ただし、こうした櫂は家宝的存在だから、売ってくれといっても簡単に手放しはしない。櫂が彼らの生活必需品だからでもあるが、それ以上に櫂に対する信仰に近い迄の愛着信があるからである。
 
だから、カボクロがカヌーから上がるときは必ず櫂を持って上がる。流失したり、盗まれたりするのを防ぐ意味もあるが、生活感情からいって置き去りになど出来ないのである。
 
アマゾン独特の舟にレガトンというのがある。レガトンとは舟の形ではなく、アマゾンの行商舟のことである。
 
語源的には舟を漕ぐ意味、あるいは競艇のレガッタと同じであるが、アマゾンでは十七世紀に植民者が入植した時代から行商舟をレガッタと称している。
 
レガトンには、ものを高く売りつける意味と、物を安く買いたたく意味の二つがあるが、これは最初アマゾンに入った植民者達が小舟で奥地に入りインジオとの掠奪交易をおこなったことに起因している。
 
もちろん現在のレガトンはそんなあくどいことはやらない、ごく普通の行商舟である。
 
レガトンはベレン、マナウス、サンタレンのような大きな町で日用品、雑貨、食糧などを仕入れて舟に積み込み、避地を行商する。舟の大きさは30~50トンだが、中には百トンもある大きなレガトンもある。
 
かって、日本の田舎でもトラックに日用品、雑貨をのせた行商があったが大体あんなものと思えば良い。ただ、アマゾンのレガトンはもっと牧歌的でのんびりしている。
 
一航海回るのに一カ月も二カ月もかかるから、家族同伴で出かける場合も多い。この点、舟はスペースが広いから便利だ。
 
レガトンは行きは日用品、雑貨などを積んで行くが、帰りは相手次第で何でも交易してくる。
 
各種のゴム液類、オンサ、山猫、鹿、猪の毛皮、ワニ、トカゲの皮、パラー栗、薬草、魚の乾物、ピラルクー、ワニ肉の潮蔵品から果ては生きた牛や豚の取引迄応じる。
 
レガトンといえども、各地に点在するカボクロの家を一軒一軒廻っていたのでは商売にならない。だから行き先はよろず屋を開いているパトロンの家である。廻るルートも決まっているし、おおざっぱではあるがいつごろ立ち寄るかも大体きまっている。
 
レガトンは目的地につくと一日や二日は滞在するから、その間に付近のカボクロが女房、子供をカヌーに乗せて集まってくる。カボクロ同士でも離ればなれに住んでいるから、こういう時でもないと一緒に会うことが出来ない。
 
お互いの近状を話し会い、パトロンの悪口を言い、レガトンから必要物資を買ったり、交換したり、女共は井戸端会議に興じ、レガトンを中心にゆっくり時を過ごす。
 
まことにのんびりして絵になる風景だが、最近はこのレガトンもめっきり数が減ってしまった。
 
パトロン達が大きな舟を持ち、自分で直接仕入れるようになったからである。
 
 <サンパウロ新聞 アマゾン学のすすめ>から
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