ブラジルでは、インジオ保護法によって、アルコール飲料をインジオに売ることは禁止されている。アルコール飲料といっても、この場合はピンガとカシャッサとか呼ばれる火酒のことである。
インジオのような未開民族は、文明人のようにいろいろな社会的制約がないから、知性、教養をつかさどる大脳皮質は前葉部が文明人ほど発達していない。
文明人は、この大脳皮質前葉部が発達しているから、少々アルコールを飲んだくらいでは、良識がなかなか麻痺せず、まあまあ、無事に社会生活を送れる仕組みになっている。
ところが、インジオのような未開人はそうはいかない。もともと薄い大脳皮質前葉部はアルコールによってたちまち麻痺し、後葉部の本能がむき出しになる。
だからインジオに酒を飲ますと、泥酔や酒乱に陥り、凶暴になって人を殺害してしまう。こいう事故が余りにも多かったので、ブラジル政府はインジオ保護法によりアルコール飲料をインジオに売ることを禁止したわけだ。
というと、いかにもインジオはだらしないように聞こえるが、これはモトはと云えば文明人の責任なのである。
インジオも、かっては自分達で酒をつくっていた。原料はマンジョカ、サツマイモ、トウモロコシ及び木の実や果実で、これを発酵させた醸造酒である。
中でも、お手もののマンジョカで造った酒は種類が多く、タルバ、モコロロ、マクルル、カリン、カイスキーというように、製法によってそれぞれ名称が異なっている。
インジオの酒は種類こそ多いが、いずれも原料を発酵させてつく蒸醸酒だから、アルコールの度数もせいぜい5、6度止まりで、ピンガのように54度とか56度といった高い数度ではなかったし、それにインジオの酒を造るのには手間もヒマもかかるから毎日大量に飲むわけにはいかず、お祭りとか何かのお祝いの時に飲むのが精々だった。
この程度の飲み方なら身体にも害はないし、酒の上の事故も起こらなかったのだが、文明人がマス・プロ方式による大量のピンガをインジオとの交易や懐柔のために持ち込むようになると、インジオ社会が一変する。
なにしろ、ピンガは安直に手に入り、しかもアルコールの度数が高いからすぐ酔っぱらうことが出来る。
インジオにとっては、こんな便利なものはない。ピンガ飲酒の習慣はたちまちに奥地のインジオ迄広がって行った。今ではよほど奥地の未開のインジオ以外、手造りの酒をつくることさえ忘れているほどで、この傾向は文明人と接触のあるインジオに強い。
当然、酒の上でのケンカや殺傷沙汰も増えてくるし、共同作業にも従事せず、酋長のいうことも聞かなくなる。
インジオ社会の崩壊を憂慮したインジオ保護局は憂慮したインジオ保護局は、法令によってインジオにアルコール飲料を売ることを禁止するが、一度知ったピンガの味と安直さをインジオに忘れさすことは難しく、悪徳商人の抜き売りもあって、一向に改まらないのが実情である。
インジオ社会を崩壊させ、滅亡に追いやる三大要因は酒と病気と売春でいづれも文明人がもたらしたものである。
良く知られているようにインジオ社会は一人のトウシャワ(奠長)によって統制、統率された社会である。
トウシャワは唯一、最高、絶対の権限を持った族長であり、すべての決定はトウシャワによってなされる。
文明人は、こうしたインジオ社会の統制を無視して、自分の利益のために個人、個人のインジオと酒や食糧、日用品の交易をおこない、自分の欲望のためにインジオの女と交わり、あらゆる病気を伝染させる。
インジオにとって望ましいことは、アマゾン開発などせず、自然に放っておいてくれることだが、これらの攻勢はいかなる力をもっても防ぎようがない。むしろ、アマゾンの巨大なジャングルを盾によくぞ今まで持ちこたえたというべきかもしれない。
<サンパウロ新聞 アマゾン学のすすめ>から
戻る