希望大国ブラジル(その27) 守り伝える日本人の精神 「卵王国」を訪ねて

希望大国ブラジル(その27) 守り伝える日本人の精神 「卵王国」を訪ねて

守り伝える日本人の精神 「卵王国」を訪ねて

 地球の反対側に日本人が建設した町がある。サンパウロ州奥地のバストス。日系人による養鶏が盛んでブラジルの鶏卵生産の2割を占め、日本人が興した生糸工場はフランスの高級ブランド、エルメスのネクタイやスカーフなどシルク製品の90%を供給する。そこは日本人より日本人らしい日系人が暮らす町でもあった。

 長距離バスターミナルでサンダル履きの男性に迎えられた。「卵王国」と呼ばれる町で養鶏業を営む2世の薮田修さん(70)。

 「養鶏、生糸、商業。町の経済の8割は日系です。こんな町はここしかない」

 バストスは1928(昭和3)年、日本政府の肝いりで開発された計画都市であり、街路は碁盤の目のように整然と並ぶ。日系市長が7人続き鉱山エネルギー相や日系初の判事を輩出した。現在、2万3千人のうち日系人は800家族3千人。養鶏は70家族が1768万羽を飼い、毎日1200万個の卵をブラジル全土へ出荷する。

 薮田さんは一族で450万羽を所有し360万個を出荷する大企業主だが、折り目正しく、暮らしは質実だった。

 「私は田舎育ちだから。それに身なりや車がいいと強盗に狙われる」

 しっかりとした日本語は50歳をすぎて学び直したものだった。

2世に「誇り」

 わが国が戦争へ突入した1941(昭和16)年、薮田さんはバストスで生まれた。連合国についたブラジルは敵国人として公の場での日本語の使用を禁じた。戦後、日本人移民は祖国の戦勝を疑わない「勝ち組」と、敗戦を認めた「負け組」に二分され、勝ち組はテロ行為に及んだ。

 薮田さんは「戦後は負け組の人々やブラジル人から日本語をばかにされ、私たちの世代は日本語を学べなかった。年を取るごとに、やっぱり日本語を知っておきたいと思うようになった。会話はできるようになったが、読み書きはまだ難しい」と話し、こう続けた。

 「私は2世であることに、日本人の血が流れていることにオルグリョ(誇り)を感じている。だから日本で日系ブラジル人が犯罪を起こすと心の底から腹が立つ。恥だと思う」

 同じ2世の元公務員、阿部五郎さん(84)は「日本人として恥になることをしてはいけないと思ってきた。子孫の世代へも伝えていきたい」と話す。

 彼らが守り伝えようとするものは表面的な日本文化ではない。遠い異国で80年かけ「卵王国」を築いた勤勉や質実、正直といった、父祖の国でさえ失われつつある日本人の精神だった。

「日伯学園」構想

 今年7月、東京の社団法人日本ブラジル中央協会が日伯文化交流委員会という組織を作った。サンパウロで2007年にできた日系団体、日伯教育機構の活動を応援するためだ。

 ドイツやイタリアなど各国の移民社会は、祖国の政府や企業の協力で総合学園を建て民族文化の普及を図っている。日系社会も「日伯学園」を作り、よき日本人の心を広く社会へ伝えようとの構想だが、資金難から進んでいない。韓国人は40年ほど前に移住が始まり現在6万人にすぎないが、数年前に300万ドル(約2億4千万円)を集め、韓国政府が同額を助成して「韓伯学園」を建てたという。

 日本側の委員長でブラジル東京銀行元頭取の小林利郎さん(78)は「日伯の特別な関係の基礎にはブラジル人の日本人への親しみや敬意がある。それを支えてきたのは日系人だが、社会への同化が進み日系人が日本人の美点を失ったとき、日伯は普通の国の関係になってしまう」と話す。

 ドイツ系学園の関係者は日伯教育機構の理事へこう語ったという。

 「海外での文化投資は目に見えないが、長い目でみれば必ず国益となり戻ってくる」

-産経ニュースから-

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