快走するエタノール車 日本での“迷走”尻目
広大なサトウキビ畑の真ん中にバイオエタノール精製工場が現れた=ブラジル・サンパウロ州(白岩賢太撮影)
ガソリンスタンドに真新しいシルバーのセダンが滑り込んできた。ブラジル・アマゾナス州マナウスの街角。口ひげをたくわえた従業員が給油口を開けると、ふたに「ガソリナ/アルコル」と併記されていた。「きょうもエタノールかい」。従業員の問いかけに運転手はうなずいた。ブラジルではありふれたやり取りだ。
アルコルはサトウキビを原料とする燃料「バイオエタノール」を指す。ブラジルは世界一のサトウキビ生産国であり、1970年代の石油危機を機に、ガソリナと呼ばれるガソリンに代わる燃料として普及を図ってきた。エタノール100%のアルコルの他、実はガソリンにもエタノールが20~25%混ぜられている。
2003年には、ガソリンやエタノール100%はもちろん、エタノールをどんな割合で混ぜたガソリンでも走れる「フレックス燃料車(FFV)」が独フォルクスワーゲンにより初めて発売され人気が爆発した。10年の新車販売の86%はフレックス車が占める。
ただ、燃費はガソリンの7割。給油した左官業、ロリバル・サントスさん(57)は「スタンドの値段表とにらめっこし、ガソリン価格の7割よりエタノールが安ければエタノールにする」と生活の知恵を語った。
事業超えた魅力
ブラジルのサトウキビの6割が生産されるサンパウロ州。西端の町ミランテ・ド・パラナパネマへ巨大なエタノール精製工場を訪ねた。見渡す限りサトウキビ畑が広がり、2メートルほどの背丈の茎が青空へ向かって真っすぐに伸びる。その真ん中に近代的なプラントがそびえたっていた。こうした精製工場は国内に大小439カ所あるという。
工場は日本の商社、双日が出資し、従業員2300人がサトウキビの栽培から製糖やエタノールの精製、搾りかすを使った発電まで一貫生産している。ビトリオ・ブレダリオル工場長(57)は「技術革新と効率化、従業員のプロ意識で生産性を高めている」と胸を張った。
消費拡大を見込む欧米の穀物、石油メジャーなど外資の進出は相次ぎ、伊藤忠商事は穀物メジャーのブンゲと合弁会社を作り今年5月、北東部トカンチンス州で精製工場を稼働させた。
双日ブラジルの粟屋聡副社長(47)は「原油価格の高騰が世界経済の大きなリスク要因となる現在、バイオ燃料は環境や再生可能エネルギー社会の実現に向け、ビジネスを超えた魅力がある」と話す。
混合方式で対立
わが国でも、地球温暖化対策の一環としてエタノールを混ぜたガソリンの普及が始まっている。ただ混合率が低く平成22年の全ガソリン消費量5994万キロリットルのうちエタノールの利用は推定0・6%にすぎない。
ガソリンへのエタノールの混ぜ方には、そのまま混ぜるブラジルや米国の「直接混合方式」と石油ガスを配合した上で混ぜる欧州の「ETBE方式」がある。ブラジルは混合率25%、米国は10%が主流。欧州も混合率を自由に上げられる直接混合へシフトしてきた。
ところが、日本では環境省が17年から直接混合の普及を目指し混合率3%の実証実験を進める一方、石油元売り団体「石油連盟」がETBEにより1~3%の商品を「バイオガソリン」と名づけ全国のスタンド990カ所で販売している。
石油連盟の広報担当者は「直接混合は車の部品を腐食させる恐れがある」としてETBEが優れていると説明する。環境省は「ETBEでは技術的に混合率を上げられない。石油連盟の既得権益や、硬直した法制度のため世界標準からかけ離れている」(地球温暖化対策課)と対立している。
わが国でエコカーといえば電気自動車やハイブリッド車が代表格だが、地球の反対側ではきょうもサトウキビで車が快走している。
-産経ニュースから-
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