希望大国ブラジル(その18) 工場増えて森林破壊減った マナウス経済特区

希望大国ブラジル(その18) 工場増えて森林破壊減った マナウス経済特区

工場増えて森林破壊減った マナウス経済特区

 1969年、ブラジル・アマゾンの原生林で1台のトラクターが原野を整地していた。「一寸法師が鬼に立ち向かっているようだった」。アマゾナス州の州都マナウスにあるアマゾナス日系商工会議所の会頭を務めた山岸照明さん(76)は、その光景が今もまぶたに焼きついている。

 山岸さんは東京都出身。慶応義塾大学で経営学を学び、海外で事業を興したいと移住支援団体「日本力行会」の一員として渡伯した。アマゾナス製鉄所の人事担当として赴任以来、マナウスで暮らしてきた。

 65年に制定された森林法により、森林伐採を伴う外国企業の進出には連邦政府か州政府の許可が必要だ。許可には審査があるが、67年に経済特区ができた当初は連邦と州で法の解釈が異なり、悩まされたという。

 「虫一匹も殺すな」。州政府の窓口で真顔で言われ、交渉が進まなかった経験もある。山岸さんは「江戸時代の『生類憐れみの令』みたいだが、許可に時間がかかり進出をあきらめた企業も多かった」と振り返る。

 あのときの原生林は42年後の現在、世界有数の経済特区「マナウスフリーゾーン」へと発展を遂げた。

雇用が環境を保護

 マナウス経済特区監督庁によると、特区内の製造業で働く人は2003年の6万人から08年は10万人と5年で1・6倍に増えた。一方、国立宇宙研究所によれば、アマゾナス州で1年間に失われる森林面積は同じ期間に1558平方キロから604平方キロまで減った。

 ジェトロ(日本貿易振興機構)中南米課の二宮康史課長代理(36)は「大量の雇用が生まれたことにより、周辺地域で生活のために木を切る住民が減った。『工場が建設されて環境が保護された』という一見、逆説的な状況が生まれている」と指摘する。

 ノキアの携帯電話工場で働くパウロ・ジルベルトさん(43)は6年前、マナウスから東へ400キロ離れた都市パリンチンス郊外の農地を牧場主へ売り、移住してきた。価格は1ヘクタール数百ドルだった。ジルベルトさんは「祖父の代にアマゾンへ入植し、父も自分も生活のために木を切ってきた。現在は工場勤めで生活できるようになった」と話す。

 アマゾナス州工業連盟のアントニオ・シルバ会長(63)は「貧困をなくせば森林破壊は減る。特区を発展させ生活を豊かにすることが使命だ」と語った。

「開発が票になる」

 アマゾンの森林をめぐる状況は5月24日、森林法の改正案が連邦下院で可決され、急展開を見せている。所有地の80%を手つかずのまま保全するよう定めた現行の規定は維持されたものの、これまで耕作が認められていなかった「山の尾根や斜面」の開発を認めた。また、禁じられていた河川から30メートル以内の開墾を「15メートル以内」へ緩和した。

 下院では410対63の圧倒的な賛成多数だった。ルセフ大統領は上院でも可決された場合、拒否権を発動すると公約している。鳥取環境大学の根本昌彦教授(49)=森林資源管理学=は「アグリビジネス(農業関連産業)の側は、国際的な農産物価格が高止まりする今、規制緩和し農地を増やせば簡単に米国の農業を追い越せると主張し、そうした支持者に送り出された地方出身の国会議員が大量に賛成へ回った。環境より開発が票になるという現実がある」と指摘する。

 国立宇宙研究所によると、今年3、4月の2カ月間で前年の6倍近い593平方キロの森林が失われた。東京23区に匹敵する広さだが、農業者が森林法の改正を先取りして伐採を進めているとの見方が出ている。

-産経ニュースより-

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