希望大国ブラジル(その17) 密林に浮かぶ工業都市 マナウス経済特区

希望大国ブラジル(その17) 密林に浮かぶ工業都市 マナウス経済特区

密林に浮かぶ工業都市 マナウス経済特区

 コーヒーの海が広がるような茶褐色のアマゾン川が悠然と流れる。縦横に立体交差した道路を走る通勤バスに揺られ、ナタリア・エウザさん(24)は郊外の工業団地へ向かっていた。赤道直下に180万人が暮らすアマゾン最大の都市マナウス。密林に浮かぶ島のようにビルが建ち並び、フリーゾーンと呼ばれる経済特区として“ブラジルの工場”の役割を担う。

 米国コダックの精密機器工場で働くエウザさんは「渋滞がひどくて家を出るのが1時間早くなった。でも仕事は安定しているし、給料もいいから地元の村にいるよりずっと恵まれているわ」と笑顔を見せた。

 19世紀末に天然ゴムの一大景気にわき、その後衰退したものの、1967年に経済特区に指定された。優遇税制で企業誘致を図り、現在は日本企業37社を含む世界の200社が進出。2010年の総売上高は351億ドル(約2兆8千億円)。世界に2千以上ある経済特区の中でも5指に入る成功例といわれる。マナウス経済特区監督庁のエマヌエル・アギュアル予算計画局長(56)は言った。

 「現在の発展は日本企業の進出なくして語れない」

HONDAの賭け

 ブラジル中で「HONDA」のバイクが目立つ。ホンダの2輪事業の現地法人「モトホンダ・ダ・アマゾニア」は国内シェア77%。同社は1975年、マナウスへいち早く進出した。

 大西洋のアマゾン川河口から1500キロのマナウスは現在も水路による物流が主流だ。国内主要都市への製品輸送でさえ、1週間以上かかる不利な立地。進出はホンダにとって一種の賭けだった。

 ブラジルホンダ副社長で日系2世のイサオ・ミゾグチさん(51)は「一面の荒野で道もなく、工作機械を運ぶためピラミッドの建設のようにころ棒の上を転がした」と振り返る。80年代後半からはハイパーインフレに見舞われた。日本企業が軒並み撤退する中、徹底した部品の現地生産と粘り強い社員教育で乗り切った。90年代後半には経営は安定した。

 マナウス工場は年産150万台とホンダの工場として世界最大。ミゾグチさんは、貧困層の多い東北部を中心に3年間で32万台が売れた低価格バイク「ポップ100」を手でさすり、「ロバを養う金額よりオートバイの価格が安くなった時点で人々は買い始めた」と話した。

歴史が築いた信頼

 ソニーのマナウス工場は主力の薄型テレビやデジカメなど8部門を3棟で生産する。牛田肇工場長(53)は「ここまで多種類を扱う工場は他にない」と話す。一棟では総出力1695ワットと日本国内ではテストできないほど大音量のスピーカーを試験中だった。

 ブラジルは歴史的に黒人の多い東北部や欧州系が中心の南部など地域色が強い。スピーカーも東北部では爆音系が流行し、サンパウロでは「iPod」と接続できる製品が人気を集める。ソニーブラジルの筒井隆司社長(52)は「国内に6つほど国がある感覚で、地域や客層別に的を絞って売り込むのがブラジル市場の奥深さだ」と話す。

 ソニーの工場に隣接する建物は、韓国サムスン電子の工場跡だった。サムスンは昨年、2億9千万レアル(約145億円)を投資してより広い新工場への移転を決め、特区内に用地を確保した。ここでも韓国、中国企業の躍進が目立つが、アギュアル局長はこう語った。

 「韓国、中国の進出は歓迎だが、多くの部品会社を引き連れ、地場企業の育成にも粘り強く取り組んだ日本企業とは明らかに異なる。信頼は歴史の裏づけがなければ築けない」

-産経ニュースより-

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