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高くつく南部の商品
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高くつく南部の商品
アマゾンは金を使うところがないから、生活費が安上がりにつくだろうと考える人は多いが、実はその逆で、文明人がアマゾンで生活しようとしたら非常に高いものについてしまう。
たしかに、奥地のカボクロのように掘立小屋に住み、パンツ一枚でマンジョッカと干し肉を食べているような生活をすれば安上がりにつくことは間違いないが、文明人はそんな生活はとても出来ない。
食料を含めて生活必需品のうち、アマゾンで自給出来るのは、マンジョッカ、魚、その他2、3の特産品だけで、あとは衣服だろうがすべて外部、とくにブラジル南部から入ったものである。
アマゾンの材木には銘木類が多いから、家具などはアマゾンで作れそうに思われるが、これがそうでない。
町の家具やで売っている、ちょっと気の利いたものはサンパウロかパラナ製である。アマゾンの木の方がよっぽど良いのに「これはパラナ製でさぁ」などと自慢そうに南部の家具を売っている。
もっとも、アマゾンの銘木は堅くて、重くて、細工がしにくいから、技術も道具もない、アマゾンの大工の手に会うものではない。
このように外部から運び込まれた商品は、当然のことながら高いものにつく。商人としたら、運賃、荷傷み、運送途中の事故などを考えたら、相当高く売らないと間に合わないのである。
数年前迄は考えられなかっただが、今では飛行機を利用するから、例えばサンパウロ州の日系農家が作る、桃、柿、イチゴなどでもベレン市でなら食べられる。
他の地方都市に運ぶには荷いたみがひどいし、だいいち、だれもこんなものを知っている人間はいないし、余りの高値に驚いて買はしない。
ベレン市で売るイチゴは一箱が35から40クルゼイロする。サンパウロの出盛り期には5から6クルゼイロだからいかに高くつくかがわかる。
こいいう高級果物?―アマゾンには熱帯の珍しい果物がたくさんあるのだが—を売るのは街角の屋台店である。
どうせ限られた数しか売れるものではないし、イチゴなどはすぐいたむから、売り子も大事に取り扱っている。
ある時、屋台店にイチゴが出ていた。例によってバカ値だが、あまり見事だったので、ついふらふらと買う気になる、店の前に立ち止まった。
すると一人の老カボクロがしげしげとイチゴを眺めてふしぎそうな顔をしている。私を見ると話しかけてきた。
「これは何かね?」
「これはモランゴ(いちご)といってね、サンパウロで出来る果物さ」
「ふーん、モランゴか、見たことがない」
えらく感心した老人はつと手をのばし、箱の中のイチゴを一つ摘んだ。あわてたのは店の売り子で
「ダメだ!さわっちゃダメだ!」と大声で怒鳴ったが、老人はつまんだイチゴをゆっくりと口中に放り込み
「大してうまいもんじゃないな」と呟いた。
老人としてみれば食べ物を買う際、いつもやっている味見をしただけだったが売り子がおさまらない。一箱かえ、買わぬで口論になった。
ムッときた老人は、いきがかり上「一箱買えば文句はないんだろう?買うよ、いくらだ「と云ったが、35クルゼイロと聞かされると今度は本気で怒りはじめた。
「35クルゼイロ!そんなバカな、三日分の給料じゃないか、警察を呼ぶぞ!」
「どうぞ、どうぞ」
勝ち誇った売り子は動じない。結局、私がその一粒欠けた箱を買っておさまったが、たしかに「そんなバカな!」と叫ぶ老人の常識の方が正しい。
イチゴの話は極端な例だが、とにかくすべてが高い。しかも文明品は奥地へ行けばいくほど高くなる。
タバコはブラジル全国どこでも定価で売ることになっているが、これも建前だけで、奥地では平気で倍くらいの値段をつける。
だから市販の紙巻タバコなど、カボクロには縁がなく、もっぱら縄タバコを用いる。
(文中の価格は1975年当時のもの)
<サンパウロ新聞 アマゾン学のすすめ>から
カテゴリー:
社会/経済
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