希望大国ブラジル(その3)-「神が贈った」カリスマ指導者ルーラ前大統領の故郷を訪 ねる

希望大国ブラジル(その3)-「神が贈った」カリスマ指導者ルーラ前大統領の故郷を訪 ねる

「神が贈った」カリスマ指導者 ルーラ前大統領の故郷を訪ねて
 
 ブラジルを「希望の大国」へと押し上げたカリスマ指導者、ルーラ前大統領(65)。昨年末に2期8年の任期を全うした際も87%という驚異的な支持率を維持していた。人気の秘密は何なのか。生まれ故郷である東北部ペルナンブコ州の小さな村を訪ねた。
 
 州都レシフェから内陸へ250キロ。乾いたサバンナがどこまでも広がる丘陵地帯にルーラ氏が生まれた集落があった。村人は畑仕事の手を休め、口々に「偉大な大統領だった」「神が贈った英雄だ」などと語った。ルーラ氏のいとこというゼマリア・メロさん(58)は「気さくな人柄でいい仕事をした。誇りに思う」と胸を張った。
 
 ルーラ氏が率いた与党・労働党はここ東北部で圧倒的な支持を得ている。昨年(2010年)10月に後継のジルマ・ルセフ氏(63)が勝利した大統領選でも、党や政権の度重なる汚職にもかかわらずルセフ氏が全27州のうち北半分の16州を制した。労働党政権は3期目に入った。
 
 同じ新興国BRICsのロシアやインド、中国と比べるとブラジルの安定性は際立っている。民族紛争がなく宗教対立もない。地震もない。そして近年、安定してきたのが政治である。
 
 首都ブラジリアで32年間、7人の農相の下で日本担当の特別補佐官を務めた日系2世、山中イジドロさん(75)は「かつては日伯で長期的なプロジェクトを計画してもブラジルの政権や大臣がころころ変わって継続できなかった。今は逆に日本のほうが変わるようになった」と話す。
 
政権支える「現金給付」
 
 ルーラ前大統領は1945年、貧しい農家に8人兄弟の7番目として生まれた。
 
 父親はそのひと月前にサンパウロ州へ出稼ぎに行った。7歳のとき、母親は夫と再会するため一家で乗り合いトラックに乗ったが、夫は別の女性と暮らしていた。ルーラ氏は日系人の洗濯店で働き、やがて自動車工となった。プレス機で左手の小指を失いながらも、労働組合の指導者として頭角を現した。大衆政治家ルラはこうして生まれた。
 
 東京外国語大学の鈴木茂教授(54)=ブラジル史=は「ブラジル下層階級の典型的な人生を歩んできたことに、庶民から共感が集まった」と指摘する。
 
 東北部の貧困層でルラ人気を決定づけたのは「ボルサ・ファミリア(家族の財布)」と呼ばれる所得格差是正のための現金給付政策だった。日本の子ども手当に似ているが、家族1人当たりの月収140レアル(7千円)以下が対象。受給の条件として子供を学校へ通わせ、母子検診を受けなければならない。給付は月1100円~1万円。ブラジル全土で2010年に1276万世帯が受給し、東北部が5割を占める。
 
 ルーラ氏の故郷の集落でも150世帯のうち9割が受け取っていた。

学校通えるように

 豊かな南東部の中高所得層にとって現金給付はばらまき以外の何物でもない。ブラジルは税負担がGDP(国内総生産)の35%に上る高負担国家でもある。

 サンパウロの金属メーカー勤務、ファビオ・ラパさん(25)は「選挙目当てに現金をばらまくのではなく、どうすれば現金を稼げるかを教えるほうが大事なのではないか」と話す。

 ルラ氏の故郷バルゼア・コンプリダ集落があるカエテス市のボルサ・ファミリア担当、セリアンニ・シルバさん(30)は「“南”の人は“北”の貧しい状況を知らない。子供が学校へ通え、学用品が買えるようになった。消費拡大にも貢献している」と訴える。

 ブラジルでは18~70歳の読み書きのできる全国民に投票が義務づけられ、希望すれば10%程度いるとされる読み書きのできない人も投票できる。中間層が拡大したいまなお大きな貧富の格差が存在する中、東北部などの貧しい人々への補助金政策がこの国の政権を支えているともいえる。

 ルーラ氏の故郷の集落に生家はすでになく、跡地はマンジョカのイモ畑になっていた。村人たちは昨年10月、故郷の英雄を記念して跡地から100メートルほど離れた畑に生家を復元した。土壁に瓦屋根の小屋だった。

―産経ニュースからー

 
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