アマゾンの生薬を知るにはベレンやマナウスの露天市に行くのが一番手っとりばやい。
20、30軒、店を並べて雑多なものを売っている。お義理にもきれいといえたものではないが、興味のあるものにとってはこんな面白いところはない。
筆者もベレンの露天市にはずいぶん通った。
どの店も色気の抜けたようなジイさん、バアさんがやっているが、何回も通っていると、そう大して数もない店だから顔なじみになる。
「やあ、どうかね」
暇そうなバアさんに声をかける。
「ああ、あんたか、まあちょっと寄りなよ」
ということで話がはじまる。
「あんた、これ知っているかね」
得体の知れぬものをつまんで見せる。
「こりゃあな、ボート(イルカ)のアレさ」
なるほど、よく見るとイルカの陰茎を睾丸つきで乾かしたやつだ。
「これはな、シャーマ・ムリェールといってね、男だけの薬よ」
シャーマ・ムリェールとは女を呼ぶという意である。さしずめ「招女丸」とでもいうところかな。
「シャーマ・ムリェールねえ、いい名前だな。で、それをどうするんだい?」
「そこでだ」
と、明らかにインジオと黒人の混じっているこのバアさん、得意顔で座りなおした。
「これをね、これ、こういうふうにピラルクの舌ですりおろすんだ」
ごていねいに実演してくれる。鮮やかな手つきだ
「ふむ、それで?」
「そしてこの粉をカシャッサかカフェに入れて飲むんだ」
「きくかい」
「いや待ちなよ、まだ話の続きがあるんだから。これはね、飲むだけじゃダメなんで、この粉を身体のアチコチに塗らなくちゃならない」
「ほほう!」
「いいかね、特にあそこの先にはたっぷり塗る必要がある」
バアさん、大まじめで自分の太い指を立てて先端に塗るしぐさをしてみせる。
「ははあ、それでどうなるの?」
「それでおしまいさ」
「しかし。。。」
何か云おうとしたら、バアさん大きく手を振った。
「いや、いや分ってる。それでだ、あんたがそうやって粉をつけてしばらく街を歩いてから、うしろを振り返ってごらん」
「どうしたね」
「若い娘が百人もあんたのうしろにくっついているから。。。それでシャーマ・ムリェールというんだよ、ワッハッハ」
と歯の抜けた白い口を開けて大笑い。こちらもつられて大笑いだが、こういうのはたのしくて良い。
「だがね、あんた、これはホント余りきかないよ。この手のものではマカコ・マッショ(雄猿)のアレが一番さ。男に飲ますともう大変なんだから」
「しかしね、あんたはそれでも女だろ、きくとかきかないとかいったって男でもないのにどうして分かるんだい」
「バカだね、あんた、亭主にためさせればすぐ分かるじゃないか」
それもそうだと、二人でまた大笑い。
この商売をはじめてから40年になるそうだが生薬のことは実に詳しくい。文盲で植物の正式な名前も知らず、どんな成分がどのように効くのか無論知るはずもないが、実用的な知識は驚くほどよく知っている。
「花や実をとるのは満月の日の朝が良いんだよ。新月に採った花や実は半分も効かないね。根っこは反対に満月はダメなんだ。養分が上へ行っちまうからね。
そうだろう、エビやカニだって月夜のはまずいよ。特に月夜に卵を産んだばかりのはやせ細っているからね。女だって子供を産んだのをすぐ抱いちゃ味がわるかろう、同じことさ」
このバアさん、話をすぐそっちへ持って行きたがる。
この連中、ワイ談は大好きだが、不思議といやらしさがない。開けっ広げで健康的、熱帯の太陽のもとでするワイ談よりはるかに陽気でバイタリティに満ちている。
<サンパウロ新聞 アマゾン学のすすめ>から
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