多い酒の上の犯罪

多い酒の上の犯罪

 

インジオに与える酒の影響については「酒造りを忘れたインジオ」で述べてあるが、実はカボクロだって似たようなものである。カボクロの酒の上の犯罪と、「深刻な少女売春」でふれてある少女売春は、アマゾンの大きな社会問題であり、関係者の頭を悩ましている。

酒というのはこの場合ピンガのことだが、ピンガというのは主として一般的呼称で、アマゾンではカシャッサといわないとカボクロにはわからない。

カボクロもカシャッサが好きで、飲ませればいくらでも飲む。そのあげく、酔い潰れたり、見境なくケンカしたりで、どうせロクなことにはならない。

しかもカボクロはインジオではないから、金さえあればどこでも買うことが出来るから余計始末が悪い。

アマゾンのパトロン連中 は、自分の家で「よろず屋」を開いているのが通例だが、カボクロに仕事をさせようと思う時には決してカシャッサを売らない。自分の店に沢山酒をおいている のに売らないというのではカボクロが承知しないから、忙しい時には本当に酒をおかないか、おいてもどこかに隠してしまう。

ある時、筆者は船で旅行をしていて手持ちの酒を切らしたことがあった。

しかし、カシャッサならどこのパトロンの店にもあるので、ついでに買おうと思い、夕暮れ前に一軒のパトロンの家に船を寄せた。その晩はそこで一泊する予定でもあった。

早速船を降り、危なっかしい桟橋を伝ってパトロンの店に行くと、カボクロが十人ばかり、それぞれのカヌーでやって来て、パトロンにゴムを渡しているところだった。

筆者はパトロンに挨拶 し、今晩船を留める了解を得てからカシャッサを一本分けてくれるように頼んだ。するとパトロンは大袈裟に手を振り「気の毒だけどね、カシャッサを切らして いるんだ。注文しているからそのうちに着くと思うがね」と大きな声でいいながら筆者を見て、片目をつむってみせた。

一時間ほどたって、あたりがすっかり暗くなった頃、パトロンは二本のカシャッサを持って筆者の船に乗り込んできた。「まあ一杯」ということで、酒盛りがはじまったが「さっきはすまなかったな」と弁解しながらパトロンは次のように説明してくれた。

「なにね、カシャッサの 一箱や二箱ないわけではないんだが、今はゴムの季節だろ。ゴム液という奴は少しでも雨水が入ると商品価値がなくなってしまうから、こまめに廻ってあつめな いと収穫率が落ちるんだ。こんな時にカボクロにカシャッサなんか売ったら、二日も三日も仕事をしないからこっちは大損さ。だから、ないということにしてい るんだ」。

なるほど、そのほうが賢明かもしれない。それでもジャングルの中でなら酒を飲んでも仕事をしない程度で、ケンカをしようにも相手がいないからたいしたことにはならないが、町の居酒屋だと、すぐケンカになって殺傷沙汰を起こしてしまう。

カボクロ連中はどういうわけか刃物が好きで、いつでも身に着けているから、ケンカになると殺すかひどい重傷を負わせることになる。

筆者がいた工場でも、僅か一年の間に一人が殺され、一人が殺した。殺人に至らない傷害や婦女暴行などは珍しくない。

だから、アマゾンでは、酔っ払って街を歩くと、別にケンカや悪いことをしていなくてもそれだけで警察に捕まる。一種の予防検束である。

筆者のいた土地の警察では酔っ払いを捕えると一晩ブタ箱に入れ、翌朝近くの墓場に連れて行き、墓場の草むしりをやらせ、夕方に釈放する。炎天下食べ物もなしに墓場の草むしりをやらされるのはかなりこたえるらしい。

筆者のいた工場の労働者もしょっちゅうこれにひっかかる欠勤者の半数近くはこうした連中だが、余り数が多いと工場の操業に影響がでるので、時にはもらい下げにいく。

警察署長の話だと、これだけ取り締まっても酒の上での犯罪は一向に減らないそうだが、教育が普及しない限り、基本的には解決方法はあるまい。

アマゾン問題のむずかしいところだ。

 

<サンパウロ新聞 アマゾン学のすすめ>から

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