アリも厄介というより怖い。
フォールミーガ・デ・フォーゴ(火の蟻)というのは小さな赤いアリだがうっかり素足にゴムゾウリで歩いているとやられる。
喰いつかれると、それこそ火をつけられたような感じで飛び上がる。素早いアリで、アッと気が付いた時は何十、何百と足の上に這い上がっている。
タシーという木は「アリ植物」で、生きた木の組織の中に同じ名前のタシーというアリが巣喰っているが、知らずにこの木の近くに寄ると襲われて、ひどい目にあう。タシーの木の上から雨のように降ってくるのだからたまったものではない。
タオカ、マルペラカ、あるいはコレソンと称する軍隊アリは何千万、何億と群れをなし、何キロにも及ぶ隊列をつくって移動する。
こんなのに襲われたら人間も他の動物も数分で白骨にされてしまう。実際、酔っ払ってジャングルに寝ていて軍隊アリに殺された例も数は少ないがある。
筆者は実見したことはないが、カボクロの話だとこの軍隊アリの大群が近づくと、ザワザワと特異な音がするので、この音が聞こえたら家の中にいても一目散に逃げ出すのだそうだ。
この時に犬や猫は一緒に連れて逃げるが、豚やニワトリを避難させるヒマ迄はないので大抵やられるとのこと。
その代り、軍隊アリの通ったあとは、ネズミもヘビもゴキブリもハエも蚊も完全に喰い尽くされてきれいになってしまう。
アリの王者はトカンデイラである。
体長五センチに達する巨大な黒アリで、ハチのような毒針を持っており、噛むことも刺すことも出来る。刺されると猛烈に痛んで発熱する。滅多に人間が死ぬようなことはないが、それでも体質的に弱い人間は生命の危機を伴う。
インジオは、トカンデイラに刺された時は患部を異性の小便で洗うか、すぐに男女の交わりをすれば痛みがとれるものと信じている。
小便で洗うのはアンモニア消毒をすることで、理にかなっているが、男女の交わりの方はどうもよくわからない。
インジオの部族によっては。若者の勇気をためすため、男子の成人式にこのトカンデイラを使うが、この儀式は大変興味深い。
成人式というには、インジオ社会であっては、男の子が元服して戦士の一員となることで、生涯でもっとも重要な儀式だが、同時に結婚式をも兼ねている。
式は酋長をはじめ、部族の全員が見守る広場で行われる。
まず、盛装した若者が広場の中央に立つ。次に介添役が進み出て、椰子の織物で作った手袋を若者の右手に被せる。
そこへもう一人の介添役が特大のトカンデイラを持ってあらわれ、死んでいるのではないことを示すため、酋長や長老の傍に行き、トカンデイラの胴をつまんで生きている証拠を見せる。
酋長や長老が無言でうなずくと、介添役は若者のところへ行き、巨大な黒アリを若者の右手にかぶされた手袋の中に入れ、ヒモで手袋の口をしっかりとしばる。
手袋に入れられたトカンデイラは怒り狂って毒針で若者の手を刺し、噛みつく。
若者の顔はみるみる苦痛にゆがむが、手袋をとったり、見苦しく転げまわることは許されず、ひたすら苦痛に堪えなければならない。ここが男になれるかどうかの正念場なのだ。
やがて、ころあいをはかり、酋長の右手が高くあげられると、群衆の中から盛装した娘が若者のところへ進みより、苦痛に堪えてたっている若者の脚元に横たわる。
そこで若者は衆人環視の中で神聖な男女の交わりを行う。この時も手袋をつけたままだから、若者にとってはなかなか大変なことである。
男女の交わりが無事にすむとはじめて手袋をとることが許され、盛大な成人式兼結婚式のお祝いがはじまる。
この儀式は若者の勇気をためすだけではなく、ちゃんと、毒消しまでやってやるところがおもしろい。
<サンパウロ新聞 アマゾン学のすすめ>から
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