フィラリア蚊は普通の蚊よりいく分小さく、足が極端に長く、止まると逆立ちをしたような形になるからすぐわかる。
動きのすばやい蚊で、血を吸っていない時は手ではなかなか叩けない。
この蚊はアマゾンにはどこにでもいるが、アノフェレス蚊に刺されても、その蚊がマラリア菌を持っていない限りマラリアにはかからない。
しかし、マラリアが依然としてアマゾンの恐怖であることには変わりがなく、筆者が知っている範囲でも1964 (マラリア)と発音し、南ブラジルのようにMaleita
(マレイタ)とはいわない・
専門家に聞いたら、どちらも類似の熱病で、アノフェレス蚊が媒介するが、厳密にいうとマラリアとマレイタは病原菌が違うのだそうだ。
蚊はアマゾンなら大体どこにでもいるが、場所によって数の多いところと少ないところがある。また、稀ではあるが一匹もいない所もある。
群れをなす蚊は移動性の蚊で、中には日暮れ時から一時間ぐらい猛烈に襲い、あとはウソのようにいなくなるのがある。
大群に襲われると、身体に止まっているのを手で叩くぐらいでは到底間に合わない。両方の手を忙しく動かして身体中をさするか、ハンモックでもかぶっているより方法がない。
ところがアマゾンの蚊はどう猛で、衣服やハンモックを通しても刺すからひどい。カボクロは少々の蚊には驚かないが大群におそわれるとやはり逃げ出す。
カボクロの時間に対する観念や距離感が、文明人のそれと異なることはよく経験するところだが、蚊やそのほかの害虫についても感じ方が違っている。
初めての土地で「蚊はいるか」と聞いて「いない」といわれて安心はできない。大抵、眠られぬ程度にはやられる。「少しはいる」ということであれば、相当の覚悟が必要だし、「沢山いる」といわれたら、これはもう逃げた方が賢明。
カヤは天井から吊るすベッド用のと、寝袋のハンモック用のがあって町ではかなり使われているが、暑苦しい上に、ベッド用にカヤなどはベッドの四角に突っ張りをしないと、カヤが弓なり垂れて身体にまきつき、あまり具合のよいものではない。
カボクロは普通カヤは使わないし、殺虫剤や蚊取線香など、もちろん用いず、「慣れ」と「我慢」を自衛手段としている。
蚊のことをアマゾンではカラパナンという。ムリソカ、あるいはモリソカ、でも通用するところもあるが、ムリソカはノルデステ地方の一般的な名称で、どちらもインジオ語である。いずれにしても、ブラジル南部いう「ペルニロンゴ」(足長)は全く通用しない。
このペニルロンゴで、筆者は笑われたことがある。
ある時、ベレンで蚊取線香を買おうち薬局に入り、応対に出た十六、七の女店員に「エスピラル・パラ・ペニルロンゴ(蚊取線香)をくれ」と云った。
すると女店員「ペニルロンゴ?」とけげんな顔をする。
「そうさ、ペニルロンゴ用のやつさ。ほら、そこにあるじゃないか」と棚の上の蚊取線香を指さしたら、途端に「ケケケケ・・・・」とけたたましく笑った。
そして同僚の女店員を呼んで「ちょっと、ちょっとアンタ、このセニョールね、カラパナンのことペニルロンゴだってさ」それで二人は笑いこけている。
やっと蚊取線香を出してくれたが、よく見るとその箱にはちゃんとペニルロンゴ用と印刷されてある。サンパウロ製だからである。
(これ、これ)と思った筆者は、なおも笑い続ける彼女らに「お前さん方はかわいそうに字が読めないんだね」と箱を突きつけたら「ホントだ。ペニルロンゴと書いてある」と、ふしぎそうな顔をしていた。
<サンパウロ新聞 アマゾン学のすすめ>から
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