食事も出ない「ガイオーラ」

食事も出ない「ガイオーラ」

アマゾンのゴム景気はなやかし時代、ゴムや労働者の運搬に活躍した船は「ガイオーラ」である。




この船は150トンから600トンぐらいの大きさで、マキをたいて蒸気を起こし、船尾に取り付けた大きな水車を廻して動かす。第二次世界大戦前迄はこの型の船がアマゾン航路の主力であった。




二階建てになっており下はマキと労働者、二階が船客用である。




労働者だって客のはずだが、当時、船側は労働者を船客とみなさなかったから平気で使役した。その代り、運賃もほとんどタダ同然だった。




この船をどうしてガイオーラ(とりかご)と呼ぶかというと、船の全体の形がなんとなくトリ小屋に似ているし、大勢の労働者がハンモックにひしめいているさまが、トリ小屋のニワトリのようだからである。




今ではこの型の船はほとんどないが、それでもカボクロを大勢のせて行く乗合船のことをガイオーラと呼ぶ、一種の蔑称である。




アマゾンは河が道路だから、乗合船はいわば陸上にバスで、主だった町には必ず定期便が通っている。




ベレンマナウスのような長距離便には立派な客船が就航しているが、途中の区間運輸の船にはいろいろなのがある。ガイオーラはこうした船の中でも最低の部類に属する。




筆者はかねがねこのガイオーラに一度のってみたいと思っていた。外から見たり、人の話を聞いただけでは実態がよくつかめないが、体験してみればすぐわかる。




ひそかにチャンスを狙っていたが、ある時やっと願いのガイオーラに乗る機械を得た。




アマバ直轄領のマカパから、パラー州のモンテ・アレグレ迄約800キロ、片道四日の旅である。もっとも四日というのは上がりだからかかるので、下りは二日ですむ。




同行は会社のブラジル人職員だが、この相棒、最初からふくれっ面をしいぇいる。何もわざわざガイオーラでいくことはないというのだ。




相棒をなだめて、船着場に行き、船主の案内で船に乗り込んで驚いた。この船は60トンの木造船だが、船内は既に百人ぐらいの老若男女がのっており、空間という空間はすべて縦横にハンモックが張りめぐらされている。床は荷物が一杯で足の踏む場もない。




案内してくれた船主に




「これじゃハンモックも吊れないな」といったら




「ナーニ、大丈夫」




といって、乗組員を呼び、船客のハンモックを少しずつずらして二人分の場所をつくり、手際良く筆者達のハンモックを吊ってくれた。




ハンモックをずらされた乗客はブツブツ文句を言ったが、船主のすることなので結局黙ってしまった。筆者も悪いなとは思うが、横になるところもなくては困るから成り行きにまかせた。




これには多少説明がいる。つまり、こういう等級も船客もない船では優先権は先着順であり、場所の良いところへハンモックを吊って場所の占有権を確保する。後から来たものが勝手に先客のハンモクをずらすこと許されないのである。




筆者はハンモクを吊って、やっと居場所を確保したものの、余りの人の多さ、余りの乱雑さに内心(これは)と思わざるをいなかった。




超満員の難民キャンプにまぎれ込んだような感じである。相棒は(それみたことか)というような顔をしている。




いよいよ出発ということになり、エンジンが始動はじめた時、同行する船主がやって来た。




「ところであんた方は食料持って来ているのだろうね」




実をいうと、筆者達は缶詰め類やビスケットなどはかなり携行していた、奥地を旅行する際の非常用である。いらない場合でもカボクロの家を訪問する時のみやげにもなる。




しかし、米、フェジョン、乾肉などは持っていない。こんなもの、どこでも手に入るからだ。




「食料は持っていないけど、船でメシくらい出すんだろう?」




といったら、




「それが、この船じゃ、食事は出さないんだ。困ったな」




船主はいかのも困ったような顔をする。


 <サンパウロ新聞 アマゾン学のすすめ>から

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