住民の「足」カヌー

住民の「足」カヌー

アマゾンの交通手段は舟である。道路がないから、車による交通は発達していない。 




テコテコと呼ばれるエアー・タクシーはかなり発達しており、小さな飛行場が各地に作られているが、何と云っても飛行機は高くつくから、一般のカボクロが利用できるようなものではない。 




舟にはいろんな種類がある。大は一万トン級の豪華船から小は一人のりのカヌー迄、千差万別。 




大きな水車を取り付けた外輪船も上流ではまだ走っているし、マキを燃やしたボイラーをたき、蒸気で動かす「ステーム・シップ」も数は少なくなったが、力の強いことから重宝がられ、依然として材木の曳舟として使われている。 




このマキを燃やして走る舟は、舟の三分の二以上がボイラーやマキ置き場に占められる上、ボイラーの熱気に煽られるから居住性はおそろしく悪い。 




一度この手の舟で旅行したことがあるが、便所も台所もないのに加えて、膨大なマキの山のため、ハンモックを吊ることも出来ず、ほとほとまいったことがある。 




日本語で「ふね」といえば、小はボートから大は何十万トンのタンカーまで、いろいろな種類、いろいろな大きさのものを含んでいる。 


日本語の「ふね」に対応するブラジル語はembarcaçãoだが、日本式に「ふねがついた」というような漠然とした使い方はしない。着いたのがカヌーなのかヨットなのかランチなのか汽船なのか、はっきりさせる必要があるのだが、この使い分けはなかなかやっかいである。例えばアマゾン河で最も一般的に用いられるのはスクーナ(帆船)型の木造船だが、このタイプのものにもヤッチ(ヨット)、チッポ・ヤッチ(ヨット型)、ヤッチ・コン・モトール(エンジン付ヨット)と三つがある。ヨットは帆だけで動かす舟であり、ヨット型は高いマストがあって、一見ヨットみたいだが、帆は使わず、エンジンだけで動かすものだし、エンジン付きヨットは両方がついている。正式な名称では何というのか知らないが、最初のうちは名称を覚えるだけでも大変だ。ナビオ(汽船)とナビオジィニョ(小汽船)の境界も分からぬ、カボクロの用いる「モトール」「バポール」も、慣れないと具体的にどの舟を指すのかわからない。カノア(カヌー)のことはインジオ語でウバUVAというが、カボクロはこのウバを「渡し船」「乗合渡し船」的な意味に用いる。言葉のせんさくはさておき、アマゾンの交通手段である舟について述べてみよう。アマゾン奥地の住民のほとんどは河べりに住むから、彼らにとってカヌーは文字通り足である。カヌーの大きさは一人のりから、十人以上のれる大きなものまであるが、足であるだけに病人と赤ん坊以外は誰でも漕ぐ。三歳か四歳の子供が小さなカヌーを小さな櫂で実に器用にあやつるのには感心させられる。だいたい、カヌーという舟は細長くて横揺れには不安定だが、一旦腰をきめて漕ぎだすとスピードの出るのと、なにより進み具合のなめらかなのには驚かされる。貸しボート屋の不格好で重くて、サッパリ進まぬボートとは格段の違いだが、シロウトが漕ぐと、同じ所をグルグル廻って進まない。一本櫂だから漕ぎ方にコツがある。カボクロはこのカヌーを櫂で漕いで五キロ、十キロ、遠出する時は三十キロも五十キロも出かける。シングー河から下流は潮の干満があるから、これを利用して上がったり、下がったりする。カヌーは普通、大江を渡ることはしないが、どうしても必要のある時は島影をぬって渡る。この時は彼らも必死だ。アマゾンの本流は流れが早いうえ、波が高いから、文字通り子の葉のように翻弄される。三人か四人で漕ぐが、一人は水のかいだし役で絶え間なく入る水をけんめいにかいだす。カヌーを転覆させないために鉄則は、立ち上がらないことT、水をかいだすことである。 <サンパウロ新聞 アマゾン学のすすめ>

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