ハンモックの効用

ハンモックの効用

カボクロやインジオはハンモックで生まれ、ハンモックで死ぬ。ハンモックはインジオが発明した道具の中でのケッサクだ。




ブラジル語ではRedeで、網の意だが、これを日本式にレージと発音してもまず絶対に通用しない、ヘージまたはヘジといわないとわからない。




このハンモックは使い慣れると実に快適で、その上用途が広く、こんな便利なものはない。




だいいち、持ち運びに便利だし、ベッドのように場所をとらないから一部屋に何人でも寝られるし、上下二段に吊ることも出来る。




それにベッドになるほか、ソファにも揺椅子にもなる。取り外して折りたためば座布団代わりのクッションにもなる。




その上、ハンモックは床からかなり高く吊るから、埃もたたないし、地上を這う毒虫からも比較的安全である。




こいう便利なシロモノだから、アマゾンではベレンやマナウスのような都会地でもハンモックの常用者は多い。




だから、どんな立派な家に行っても部屋にはアチコトにハンモックを吊るす鈎が壁にはめ込まれている。高層建築のアパートなども同じことで、建設する時、最初から作っておくのだ。




アマゾンの人間がハンモックを使用するのは、貧しくてベッドが買えないからではなく、ベッドよりハンモックの方が快適なのである。




アマゾンは暑い上に湿度が高いから、日本流にいうと不快指数が高い。ベッドになど寝ていたら背中が暑くてやりきれないし、汗かきの人なら、シーツにベッタリ汗がつき、気持ちが悪くて仕方がない。




赤ん坊を一日中ベッドに寝かせておいたら、背中がアセモだらけになってしまう。その点ハンモックは通気性がある上に、揺らすと風を切るからそれだけ涼しくなる。




慣れないと首や背中が痛くなったり、バランスがとれず、時には落ちたりするが、こんなものは二、三日もすればすぐに慣れる。




ハンモックは斜めに寝ると身体がまっすぐになるので、ベッドに寝つけた人は、ハンモックは斜めに寝るものと考える傾向にあるが、斜めだろうとタテだろうと横だろうと使い方は自由自在で、各人が好き勝手に寝ればよいので、法則などあるものではない。




ベッドに寝ている人だって、一晩中同じ姿勢で寝ているわけではないのと同じことである。




ハンモクには赤ん坊用、子供用、独身用、夫婦用といろいろある。別に仕かけが違うわけではなく、サイズが小さかったり、大きかったりするだけのことである。




赤ん坊は小さいから、ハンモクにそのままのせると、すっぽり落ち込んで、包まれるようになってしまう。これではいかにも息苦しいので、赤ん坊をのせる時は、ハンモックの両端を棒で突っ張らせ、赤ん坊が包まれないようにしておく。




サンパウロでも何か所か路上でハンモックを売っているのを見かけるが、レジャー用とか、貧しくてベッドが買えない人が買うと思ったら間違いで、あれはハンモックで過ごしてきたアマゾンやノルデステ出身者が、自分の必要のために買うので、決してベッドの代用品ではない。




ハンモックの礼賛者はインテリにも多い。筆者の知り合いのエンジニアもその一人で、ある時、一杯やりながらハンモックの効用をさかんにしゃべっていたが、




「でも、ハンモックにはひとつだけ欠点がある」




という。




「なんだい?」と聞いたら、少しきまり悪そうに顔をした。




「いやあ。。。まあ。。。結婚するとねえ、ハンモックじゃ具合が悪いよ」




どう具合が悪いのか、改めて説明することもないだろうが、どうしても体位が不自然になるのである。




もっとも、これには諸説あって、ハンモックの方がスリルと変化があって良いという人もいる。まあ、それぞれの好みの問題だろう。


 <サンパウロ新聞 アマゾン学のすすめ>から

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